「……ふぅ。一息ついたら早速、瑞葵ちゃんを探しに行きましょう。」 ひとしきり遠吠えを終えると、彼女は腰を落ち着けた。 彼女の考えが早計である事を一つ、忘れたまま。 「さて……では、瑞葵ちゃんを探しに…………あ!」 そう、彼女は失念していた。 「瑞葵ちゃん……何処にいるのかしら……?」 海蛇の居場所を、彼女は知らなかったのだ。
“旅妃”と呼ばれる彼女は大の冒険好きとしてネオシスター中に知られていて、領地である海中よりも冒険先となる陸上の方でこそよく見られる、という変わり者である。 さらに、偶然に彼女と出会うことはあっても、実際に探そうとすると果てしなく時間がかかる、と言われるほど発見することは難しいらしい。 「ぐっ……わたくしったら、重大なことを忘れておりましたわ……これでは作戦が成り立ちませんわ……」 どうやら、彼女は忘れていたらしいが。
枯れ落ちた木の葉を踏んだ音が彼女の近くで聞こえたのは、丁度その時だった。 「―――!!」 彼女とて戦士である。その葉の音だけで、一瞬にして警戒心を一帯に張り巡らせた。 「……誰なのですか? 姿を現しなさい。」 その声は、先刻までの何処か穏やかだった声とは違う。 まさしく、幾つもの闘いを越えた戦士の、低い声であった。 だけれども。 「やっぱりそうだ……絵梨朱ちゃんでしょ?」 それに引き換え、その相手の声はとても幼く澄んでいた。 「……まさかと思いますが……」 彼女の周囲に一本だけ、ポツリと存在する樫の樹。 その根本の陰に、少女がいた。 白銀の鎧。両の腕に巻かれた大蛇。その大蛇の尾は頭部の右側に集められ、そのまま頭部へと接続されている。 「瑞葵ちゃん、ですか?」 彼女が求めようとしていた存在の姿が、そこにあった。 「あー、やっぱりそうだった〜♪ 遠吠えが聞こえたから、ちかいのかなぁ〜って思ったの〜」 その幼い少女はある程度の間合いまで駆け寄ってから、改めてニコリと笑った。
……その少女には、毎回のことながら緊張感という物が無かった。 自分の種の繁栄を賭けた闘い(人によっては、他の意味も含まれてくるが)だというのに、全くそういう気配が無いのだ。 その割には、犠牲をもとにして得たモノを持ち、闘う気はあるように思われるのだけれど。 ともかく、あの見つけ難い海蛇が目の前に立っているとなれば、この機を逃すわけにはいかない。 『……ですが、どう彼女を説得いたしましょうか? 媚びる? 脅す? 欺く? それとも……?』 策はいくらでもある。しかし、いくら幼いとは言えどカテゴリーQ。そう簡単に引っ掛かってくれるほど、甘くはないだろう。 でも、ここで何も喋らずにいたら不審がられる可能性もある。 「……瑞葵ちゃ……」 「ねぇ、みずとキョウリョクしない?」 口を開いた瞬間、少女はそう言い放った。
|