Eris's SpecialStory 5

梅雨空に想うは





 兄さまへ。

 兄さま、湿気の多く蒸し暑い天候が続きますが、いかがお過しでしょうか? わたくしは今、寮の部屋でこの手紙を書いています。窓の外は、今日もしとしとと雨が降り続いていて……すっかり気が滅入ってしまいそうですわ。

 …………うふふ♡ なんて書いてしまいましたけど、本当はわたくし、とても気分が良いのです。何があったのか……兄さまにだけ、お教え致しますわね♡




 それはこの前の日曜日……やはり雨の日のことでした。わたくしは図書館に本を返さなくてはいけない用件があって、駅の近くまで出掛けたのです。

 本当は、雨の日に出掛けることはあまり好きなことでは無いのです。わたくしの髪はクセが強くて、湿気が多いとまとまりがつかなくって……ホント、イヤになってしまいますわっ! ……ですけど、借りた本は期限どおりにしっかりと返さなくては、次に借りたい人の迷惑にもなりかねませんから、と思いまして、水色の傘をさして出掛けることに致しました。


 本を返すのはとても簡単です。司書さんに本を渡すだけで済んでしまいます。ですが、それだけで済んでしまう、というのは少しもったいなくって……また、新しい本を借りてしまいます☆ 図書館に来るたび、いつもそんな風になってしまって……ふふっ、自分のしていることなのに、面白いですわ♪

 そして、また本を借りた後で……せっかくここまで来たのだから、ということで、近くのお店で買い物することにしたんです。


 そう思って歩きだしたら……急にびちゃん、って大きな音がしましたの。何だろうと思って振り返ったら……女の子が水溜まりの前にいたんです。

「ひっく……ひっく……」

 黄色い雨合羽のその子は、くすんくすんと泣いていました。わたくしは……そんな子を見捨てることができなくって、急いでその子の近くへと駆け寄りました。

「どうかなされたのですか?」

「ふえぇ……おね、ちゃんの……ひっく……おねーちゃんの……たんじょうび……ぷれぜんとがぁ……」

 その子は泣きながら地面を指差しました。その先には……水溜まりの中でぐちゃぐちゃの大きな袋がありましたの。

「……っく、がんばって……いっぱいにしたのにぃ……」


 その子のお話を聞いていると……何だかわたくし、昔のフィンランドにいたころのことを思い出してしまいましたの。

 わたくし、実は……兄さまがこの遠い日本にいると聞いたときに、兄さまにプレゼントを贈ろうと思ったことがあったのです。たくさんのお菓子に、兄さまに似合いそうなペンダント、それにわたくしの大好きだった絵本やぬいぐるみを袋に詰めて……それは、小さかったわたくしの腕いっぱいの大きさでしたわ。

 それを、母さまにも、父さまにも、メイドのソフィにもバレないように、そぉっと郵便局まで運び出そうとしたのですけど……やっぱり、途中で落としてしまいまして……すっかり泣きながら帰りましたの……。


「わたくしが、お手伝いいたしましょうか?」

 そんなことを思い出すと……わたくしは手を差し伸べずにはいられませんでした。

「でも……もう、そんなにおこづかいなくって……きっと、おねーちゃん、いっぱいいーっぱいあった方が……よろこぶのに……」

 ……本当に、小さなころのわたくしと一緒ですわ。そういう風に、わたくしも思っていました……。

「大丈夫ですわ、どんなに小さな贈り物だって、きっと姉さまはあなたの気持ちを解ってくださいますわ! 大丈夫だから、行きましょう?」

 けれど、わたくしは帰ってから母さまにそのことを話すと、母さまは似たようなことをわたくしに仰ってくれました。プレゼントは量じゃなくって、そこにこもる心で価値がつくのだと……。

 そう言ってあげると、女の子はちょっぴり泣くのをガマンしながら「ホント?」と聞いたので「もちろんですわっ!」としっかり答えましたわ。そうしたら、その子の顔はみるみる笑顔になって……。

「……ありがとー、銀色のおねーちゃん♡」

 ぎゅっと私の手を握ってくれました♡




 そして、それから商店街の一角にある小物屋さんに入りました。そのお店はわたくしの学校の生徒が人気のあって、かわいらしい小物をたくさん置いているお店なのです♪

「わぁっ、これかわいーっ!」

 女の子もすぐに気に入ったものを見つけてくれたみたいですわ♪ それは、小さなタンポポのペンダントで……って、あら? 手を広げて、何か数えてるみたいですけど……。

「……うぅー……どうしよぉ、足りないよぉ……」

 どうやら、おこづかいが足りないのでしょうか……。そうだ! それだったら……。

「あの、店員さん? このお品物を二つ、戴けないでしょうか?」

 わたくしがそう言うと、女の子はキョトンとしたお顔をしていました。

 わたくしがお金を支払って一つ一つ別個に包装してもらって、それぞれを受け取っても、まだ何がおきたのかわからないようなお顔をしていました。

「……え、えっと、わたくし、これが欲しくなったのですわ♡ あ、けど、間違えて二つ買ってしまいましたわっ。ど、どーしましょう?? あ、そうだ、あなたに一つ差し上げますわねっ!」

 それで、わたくしはちょっとお芝居をしながら片方の袋を女の子に手渡してあげました♪ すると、女の子は大笑いしだしたのです! どこかおかしかったのか、と聞いてみますと、「銀色のおねーちゃんは、おしばいがジョウズじゃないのね」と言われてしまいました……。うぅ……確かに苦手ですけど……。

「でも、ありがとー♡」

 …………ふふふっ♪ 今度は落とさないように、お渡ししてあげてくださいませね♡





 ねぇ、兄さま? 今度家に戻るときには、ちょっとしたプレゼントを持ってきても宜しいでしょうか?

 ……あ、いいえっ、他の意味なんて全くありませんわっ! ただ、なんとなく渡したくなっただけですわっ!

 ……受け取って、下さいますか? わたくしの心からの贈り物……あなたへお渡し致しますからね♡



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