--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------






 わたくしは夜中に、不意に眼を覚ましてしまうことがあります。ホントウに稀なことで、どうして起きてしまったのかもわからないのですが、フッと、意識が夢から引き戻されてしまうのです。
 不思議でしかたないことなのですが、もう一度寝直すには少し遅くて……そんな日は、いつもの時間になるまで、時間をつぶすのです。







Eris's SpecialStory 6

早く起きた朝の懺悔








 窓から見える空は、もう既に白んでいました。夏至も過ぎたばかりですから、日が長くなっていたことを、改めて感じました。
 夏の頃の日の出は早いですから、冬の日にこのようになるトキとは違って、部屋の様子をぼんやりではありますが、見ることができます。ですから、桃花さんを物音で起こすこともそうないので行動しやすいのが、わたくしにとってはとても助かります♪
 それで、せっかく日が出ているのに外に出ないのはもったいないと思いまして……礼拝に行く時間まで、外を歩くことにいたしましたの。
 ということで、桃花さんを起こさないように、ゆっくり、そーっと、着替えを取りにいきました。ただでさえ、わたくしの起きる時間は桃花さんより二時間も早いものですから、起こしてしまうわけには参りません。前に起こしてしまったときは……もうホントウに桃花さんなのか、というくらい怒られてしまいましたから……充分に気をつけなくてはなりません。わたくしとしては、朝早く起きるコトは心地良いことと思うのですが……兄さまはどうお考えでしょう?
 そんなコトを思いながら、わたくしの机の上にある制服を取りました。何の変哲もない白と濃紺が基調のセーラー服ですが、そこには色々な思い出が詰まっています。いつもの学校生活や、校外学習に、兄さまと偶然お会いしたこと、兄さまにバレンタインのチョコを渡した日のことや……。
 あ、あら、いつの間にか兄さまのことが……わたくしは妹なのに、兄妹でそんな……い、いけませんわっ!

 気を取り直して、サッと制服に着替えて、最低限の身だしなみを整えてから……やっぱりそーっと部屋を出ました。
 誰も起きていない寮の中はとても静かで、わたくしの足音と、窓の外で朝の訪れを告げる鳥たちの歌声が響くだけでした。
 また朝を迎えられた歓び、射し込む希望の光……どこか快いその舞台に、わたくしはいつしか足を止め、眼を、耳を奪われていました。急ぐことなんて何もありませんでしたから、ずっと立ち止まって見ていようかと思いました。けれど、段々わたくしもその舞台に立ちたくなって、階段を駆け降りてゆきました。

 寮の玄関を開けて外に出てみると、そこには曇り空がありました。けれども、東の空は隙間が空いていて、そこから朝日の光が射し込んで、周囲の木々を、庭の草花を照らしていました。
 ……兄さまはご存知でしたか? わたくしは知りませんでした。全くの快晴であるより、曇った空に光が射す方が、ずっとキレイなことを。
 光と影のコントラストが映え、自然の美しさがより一層、伝わってきました。先程の鳥たちも、この美しさを唄っていたのでしょうか……。


 何だか夢見心地で、気付けば長い時間、そこに立っていました。朝日が雲に隠れた頃に、やっと我に帰ることができました。
 それでもしばらくの間、その場でぼんやりとしていました。その景色を思い返しながら。わたくしは、もう一度その景色が見たくて東の空を見ましたが、雲は広く厚く、叶えられそうにありませんでした。

 けれど、今日この景色が見られたのは、早く起きられたから。どうして起きられたかはわからないのですが、きっとこれも主の思し召しなのですよね……?
 もしそうなのだとしたら、わたくしは懺悔しなくてはなりません。
 なぜなら、わたくしは、兄さまともこの景色が見たい、と欲深いことを願ってしまったのですから……。





「よくぞ、懺悔して下さいました」
「……?!」
 礼拝堂の入口を振り返ると、そこにはシスター・リーナがいらっしゃいました。
「シスター、い、いつからそこに?!」
「あら、どんなに朝早いご来拝でしょうとも、それにしっかり対応するのが、神に仕える者のすべきコトですから?」
 ……うぅ、少し恥ずかしいですわ……できれば、誰にも聞いてほしくなかったのですが……。
「でも大丈夫、このことは主もお許しになるわ」
 シスターのお顔は、とても柔らかなものでした。
「こんな正直な娘の純粋なお願い、聞き入れないワケがないじゃない?」
「……シスター?」
「ああっ、コワイ顔しないの。ジョークとかじゃなくて本当の話よ? 真摯に懺悔したあなたの心は、きっと主も聞き入れて下さるわ。今度、そのお兄様とお会いしたときは……ふふっ、期待していいと思うわ♡」
 シスターはそう言うと、入口の方から外に出てゆきました。
 ホントウに、そうなのでしょうか……? けれど、シスターのお言葉はわたくしの中で助けになったような……そんな気が致しました。

 兄さま、いつかお会いするときは、いっしょに空を見上げましょう? あなたと見られたら、わたくしは……あ、いいえ、何でもございません。何でもないと言ったら、何でもありません!
 でも……わたくしのお願い、叶えてくださいませね♡



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送