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突発不定期連載SS:自信家な狼と気ままな海蛇。 Phase.4-兄さま、わたくし結構大変です……-






「……何なのですか、これは」
彼女は呆れていた。
「冒険だよっ、冒険〜っ♪」
逆に、少女は上機嫌だった。
「そんなことはわかっています。ですが……」
「ですが、なぁに?」
「何で……何でこんな山奥で何日も冒険しなければならないんですかーっっ!!!」


  ………


「あのお山の中に、オネガイをかなえてくれる泉があるんだって〜」
それが、そもそもの発端であった。
あの後、彼女が“これからどうするのですか?”と聞いた、その答えであった。
「……そんな眉唾モノの情報、何処で手に入れたのですか?」
「実はね、前のバトルファイトのときに、久遠ちゃんから聞いたの♪」
クオン……朱玉の幽玄王、マンティスクオン。 狼のエリスとは、同じ部族スート騎士の関係。
彼女は情報が早く、更に其れは正確。しかも、カテゴリーK。その力で、何度もバトルファイトを制した妹。
「……本物の情報ですか、それは」
蟷螂の情報は正確。故に、虚偽の情報を吹聴して、混乱を引き起こすことだって可能である。
此れが罠だとすれば、自らかかりに行くこととなる。
そんな不利な状態は避けたかった。
「それをたしかめるために、冒険に行くの!」
9割方、罠。
そう感付いたのはこの瞬間だった。これは少女の性格を突いた罠だと。
「けど、瑞葵ちゃん。冷静に考え直し……」
「そ・れ・に、みつかったらみずのオネガイも、絵梨朱ちゃんのオネガイもいっぱいかなえられるんだよ?」
が、この一言で落ちた。


 ………


……という流れで、彼女と少女は山中にて3日“冒険”を……
「なんで、って……なかなか泉、みつからないんだもん……」
……否、彷徨っていた。
「こうなったら、泉は諦めて山を下りた方がいいのではないでしょうか?」
正直、彼女はこの“冒険ごっこ”に飽き始めていた。
それに、3日経ってなお発見できないとなれば、それは嘘の情報だったのだろう。彼女はそう思っていた。
「やっぱり……そんなお話、なかったのかなぁ……」
「えぇ、そうですわ。大方、久遠ちゃんに嘘を吹き込まれたのですわ」
早く、この“ごっこ”を終わらせたかった。
それ故に、口をついて出てきた言葉。
その瞬間、白銀の鎧はがしゃんと音を立てて崩れた。
「……瑞葵ちゃん? どうなさったのですか?」
次に見たのは、少女の泣き顔だった。
「ふぇ……ゴメンね、絵梨朱ちゃん……こんなことに、つきあわせちゃって……」
彼女は戸惑った。
少女の泣いた理由がわからなかった。
自分を巻き込んだことだったら、謝ればそれで終わりである。別に泣く必要などない。
では、他の理由? 自分が3日間やってきたことが無駄だったから? 少女にとっての一番の損が此れなのは確かだが、不死のネオシスターにとって、3日なんて塵にも等しい。
それでは、一体なんだと言うのだろう?
「……何故、泣いているのですか?」
「だって……みず、ウソを言われちゃったんでしょ……?」
ワケが判らなかった。
「だからって、何で泣く必要が?」
「……絵梨朱ちゃんにも、手伝ってもらって、さがしたのに……ウソだったなんて……」
彼女には理解できなかった。その感情のワケが。
「悔しいのですか? だったら、仕返しを……」
「そうじゃ、ないの……けどね、なんだか……かなしくて……」
少女はただ涙を流すだけだった。その表情に、他の感情はない。
ただただ、哀しむだけ。
そこには怒りも、憎悪も、卑屈も、怨念も、一切含まれてはいなかった。
「…………」
彼女は、急に心が苦しくなるのを感じた。
『……この娘はどうしてそんな顔をするのでしょう……?』
その表情は、無言だというのに、まるで語りかけてくるようだった。
“二度とこうして泣かぬよう、護ってくれ”と。
『…………あぁ、もうっ!』
彼女は頭の中に喝を入れると、少女の顔をグッと引き上げた。
「ふあっ……」
「瑞葵ちゃん、何をしているのですか? 貴女にはそうやって愚図愚図と泣いている暇があるのですか?」
何時にも増して辛辣な語調で、彼女は少女の眼前で言い放った。
「そもそもは、他人の言うことを鵜呑みにして信用した貴女がいけないのですわ。そのようなこと、いい加減忘れて早く立ち上がりなさい」
残酷に言うだけ言って、彼女は顔から手を離して立ち上がった。
生来、一匹狼を貫いてきていた彼女の言葉は尤もだった。
「……っく……絵梨朱ちゃん、ヒドイ……よぉ……」
「これが酷いですか? 今、わたくし達がやっているのはバトルファイトなのですわ。殺し合い、ですわ。それなのに、貴女は騙されたことぐらいで泣いて……それでは“殺して下さい”と言っている様なものですわ!」
激昂の気で髪を半ば逆立たせながら、最後に右足を強く踏みしめた。
「……でも……」
「でも、何なのですか?!」
怒り。甘えたような少女の気持ちに怒りを覚えていた。これがカテゴリーQ? そんな念も、彼女にはあった。
「……でも、絵梨朱ちゃんは……何でみずをコロさないの?」
「……えっ……?」
「そうだよね、今のみず、すっごくムボウビだよね。……だったら、何で絵梨朱ちゃんはみずをコロさないの?」
彼女は一瞬、畏怖の念を抱いた。






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あとがき








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