「何故、って……貴女は今此処で封印されたいのですか?」 だが、言われてみれば確かにそうである。今この瞬間の少女は隙だらけであった。敵であるはずの彼女にとって、封印するならば今を狙わない訳がなかった。 しかし、彼女はそれをしなかった。あまつさえ、軽く説教までして少女を生かそうとしていたのだ。それは、事実だった。 「モチロンみずだって封印なんてされたくないよ。でもね、どーして今、絵梨朱ちゃんがみずを封印しなかったのかなぁ、って思ったの」 じり、と彼女は後ずさった。 「ねぇ、どーして?」 空は、徐々に北からの雲で覆われていっていた。 地上には、長い沈黙が訪れた。 ……まるで、時が止まったようだった。 本当に、何故? 何故、彼女に手をかけなかったのか? 何時もの自分ならば、先刻とは別の台詞を言って、この手で切り裂いていた筈だ。 少女を利用する為? 否、少女は想像以上に無力すぎる。利用する価値は見られない。 じゃあ、何故? 手を動かせなかった理由は? 少女を生かす選択をしたのは? 一体、其れは何? 自分は、少女を如何したかったの……?? 利用することなんかじゃない、自分はもしかしたら……。 分からない、判らない、解らない。 いや、違う。 分かりたくない、判りたくない、解りたくない。 何も、何もかも。 彼女の顔面を一滴、水が落ち、流れた。 もう一滴、小さな白銀の鎧にも。 次第に水は、他所にも 「……あ、雨だ……うぅ〜、さすがにちょっとツメタイや……」 少女は肩をすくめると、キョロキョロと辺りを見回した。 白銀の少女が動きを見せても、黒の少女はそこに立ちすくんだまま、全く動かなかった。俯いている所為か、顔もよく見えない。 「ね、絵梨朱ちゃん? あそこの洞窟の中に入ってよっか?」 少女は自分の右の方向を指差して、彼女に同意を求めた。 それでも、彼女は動かなかった。 「……ほら、絵梨朱ちゃん。早く行こ?」 反応のない彼女を見て同意と判断した少女は、彼女の右手をぎゅっと掴んだ。 その、瞬間だった。気がつけば、白銀は宙に舞っていた。 「きゃあっ?!」 ドシャッ、ガチャンッ、という鎧が丸ごと落ちた音と共に、少女の小さな悲鳴が聞こえた。 「……絵梨朱、ちゃん?」 意外な出来事に驚いた顔――これが、鳩が豆鉄砲を喰らった顔、というのだろう――をして、少女は声をかけた。 「…………」 「……えっ…?」 黒き少女は、何事かを呟いたように見えた。が、雨音が邪魔をして、少女に届くことはなかった。 其れを理解したのか、今度は金色の瞳を少女に向けて、はっきりと言った。 「……もうこれ以上、貴女と“冒険ごっこ”をする気はありません」 その言葉は少女にとって、その身に触れる冬の雨よりも、ずっと冷たく、酷なものだった。 |
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