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突発不定期連載SS:自信家な狼と気ままな海蛇。 Phase.5-冬の雨よりも冷たく-






「何故、って……貴女は今此処で封印されたいのですか?」
だが、言われてみれば確かにそうである。今この瞬間の少女は隙だらけであった。敵であるはずの彼女にとって、封印するならば今を狙わない訳がなかった。
しかし、彼女はそれをしなかった。あまつさえ、軽く説教までして少女を生かそうとしていたのだ。それは、事実だった。
「モチロンみずだって封印なんてされたくないよ。でもね、どーして今、絵梨朱ちゃんがみずを封印しなかったのかなぁ、って思ったの」
じり、と彼女は後ずさった。
「ねぇ、どーして?」
空は、徐々に北からの雲で覆われていっていた。
地上には、長い沈黙が訪れた。
……まるで、時が止まったようだった。

本当に、何故?
何故、彼女に手をかけなかったのか?
何時もの自分ならば、先刻とは別の台詞を言って、この手で切り裂いていた筈だ。
少女を利用する為? 否、少女は想像以上に無力すぎる。利用する価値は見られない。
じゃあ、何故? 手を動かせなかった理由は? 少女を生かす選択をしたのは? 一体、其れは何?
自分は、少女を如何したかったの……??
利用することなんかじゃない、自分はもしかしたら……。


分からない、判らない、解らない。
いや、違う。
分かりたくない、判りたくない、解りたくない。
何も、何もかも。


彼女の顔面を一滴、水が落ち、流れた。
もう一滴、小さな白銀の鎧にも。
次第に水は、他所にも彼方此方あちこち降り落ちてきた。
「……あ、雨だ……うぅ〜、さすがにちょっとツメタイや……」
少女は肩をすくめると、キョロキョロと辺りを見回した。
白銀の少女が動きを見せても、黒の少女はそこに立ちすくんだまま、全く動かなかった。俯いている所為か、顔もよく見えない。
「ね、絵梨朱ちゃん? あそこの洞窟の中に入ってよっか?」
少女は自分の右の方向を指差して、彼女に同意を求めた。
それでも、彼女は動かなかった。
「……ほら、絵梨朱ちゃん。早く行こ?」
反応のない彼女を見て同意と判断した少女は、彼女の右手をぎゅっと掴んだ。
その、瞬間だった。気がつけば、白銀は宙に舞っていた。

「きゃあっ?!」
ドシャッ、ガチャンッ、という鎧が丸ごと落ちた音と共に、少女の小さな悲鳴が聞こえた。
「……絵梨朱、ちゃん?」
意外な出来事に驚いた顔――これが、鳩が豆鉄砲を喰らった顔、というのだろう――をして、少女は声をかけた。
「…………」
「……えっ…?」
黒き少女は、何事かを呟いたように見えた。が、雨音が邪魔をして、少女に届くことはなかった。
其れを理解したのか、今度は金色の瞳を少女に向けて、はっきりと言った。
「……もうこれ以上、貴女と“冒険ごっこ”をする気はありません」

その言葉は少女にとって、その身に触れる冬の雨よりも、ずっと冷たく、酷なものだった。






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あとがき








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