「……え? それってどうゆうこと?」 呆気にとられた顔をして、少女は尋ねた。 「そのままの意味ですわ。もう、貴女と行動を共にすることは……ありません」 黒の少女ははっきりと言葉を放った。 最後の言葉の瞬間だけ、彼女はすっと顔を下に向けた。 「ねぇっ、どうして? どうしてなのっ?!」 少女は縋るように、大地に這いつくばって彼女に近づきながら問うた。 「……………」 答えはなかった。 「絵梨朱ちゃんっ、オシえてよぉっ!!」 雨に打たれて泥に塗れた手を伸ばし、海蛇は求めた。 地に伏せたまま、今にも泣かんかのような表情で、嗚咽交じりで、必死に、ただ手を伸ばした。 「………もう、うんざりなんです。」 人形は顔を逸らして答えた。 「そうです、嫌なんです。もう嫌なんです! 貴女が嫌なんです!!」 まるで何かに気付いたように、彼女は次々と少女を貶していった。 その声の微かな震えは雨音に掻き消され聞こえず、より一層残酷に聞こえた。 「貴女の無邪気なその声が! 虫も殺せないようなその笑顔が! いたいけなその眼差しが!」 激昂してゆく声と裏腹に、顔には 「その……無垢な 言い終えた狼の身体は、小さく震えていた。 気がつけば、海蛇が伸ばしていた手は地に戻されていた。 それでも、頭はずっと変わらずに彼女へと向けられていた。 ただ、そこに必死さは残っておらず、何かが抜け出てしまったようなものに摩り替ってはいたけど。 「……絵梨朱ちゃん……みず、みずはっ!」 「話しかけないで下さいませっ!!」 少女の悲痛な言の葉を、彼女は更に大きな声で遮断した。 「貴女の声は聞きたくない、と言った筈でしょう……?」 右後方に顔を背けたまま、ただ 少女は、如何なる声も出せず、ひどくなるばかりの雨音だけが周囲を包んだ。 「……全て……全て貴女が、いけないのです」 (認められないものを気付かせてしまった、貴女が……) 暫くして、人形はそれだけ言い残すと少女に背を向けて、ゆっくりとその先の下り坂へと歩き出した。 少女は動くことなく、ただただ黒き夏服の少女を見送るだけだった。 彼女は途中でピタリと歩を止めた。 そしておもむろに、後方を確認した。少女が見えぬことを。 数秒間動きを見せずにいたが、急に思い立ったかのように、その横へ伸びる鬱蒼とした道――といっても、道とは到底言えない 「……絵梨朱ちゃんっ! 絵梨朱ちゃんっ! …梨朱ちゃ………ちゃ…………ぁ……」 入った途端に海蛇の自分を呼ぶ絶叫が木霊したのを耳にした。 でも、決して振り返らなかった。 ただ、駆け抜けた。 唯の獣の如く。狼として。 ただ、忘れる為に。 封じ込める為に。 それでもその脳裏には、この昏い灰色の空に全く似つかわない、天真爛漫な海蛇の声が響いていた。 |
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