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突発不定期連載SS:自信家な狼と気ままな海蛇。 Phase.9-白無垢を被りし旅人-






視界は次第に傾いていった。
赤橙に染まったの海蛇は、視界の上方へ、頭から消えていった。

「…………ぁ………はぁっ……………」

ガヂャンッ

そして、静寂の空間に黒の少女は倒れ伏した。


何が起きたか、理解わかるのに暫く時を要した。
胸が、疼く。
左手を、胸に当てた。
ヌチャ、と気分の悪い音がたった。
そこには生温かく、滑りをもったモノがあった。
手を離し掌を見詰めると、ぬらぬらと不気味に光る深緑の液体があった。
仄暗ほのぐらい中に、確かなかがやきを持って。

「いや……ぁ……いや……だ………ぇ……えりす、ちゃ………」

指の隙間から見える赤橙色の白銀は、光を失っていた。
朝日のきらめきの中に、其れを繰り抜いたような昏い闇を創って。

「……君はもう御終いだよ、ウルフ。君は何れ、封印されるしぬ……君の愛すべき海蛇サーペントと共にね……」

視界の外からの黒き切り札の声が、一帯に響いた。
冷徹な声の中に、嬉々とした感情を少し混ぜて。

それを耳にすると、狼は急に気分が悪くなった。肺からヒュー、ヒューと乾いた音が鳴っていた。

「えぇ、確かに………今回は・・・、もう……御終い、ですわね……」

自分の最期を告げることさえままならない……黒の少女は情けなくて堪らなかった。
あっさりと負けた自分が。
またも頂上支配者に登りつめられなかった自分が。
あの海蛇の前で醜態を晒す自分が。

『……何をやっているのかしらね、わたくし。全くなってませんわね……あの子を巻き込んでまで……』

ふと、彼女は少女の様子を見た。少女は俯いたままで、僅かに震えていた。

狼は今回の・・・闘いの終わりを感じた。




「…………ぃんだから……」

海蛇が顔を上げて何かを呟いたのは、その数秒後のことだった。

「……みずは………っ、永遠にずっとアンタを赦さない…………何億年経ったって………赦してあげないんだから……!」

その顔は、何かに似ていた。
身体はうち震え、頬を紅潮させ、息は荒く、口角は上がり、眼は怒気と憎悪と悲哀でないまぜになり……狼といたときには決して見せなかった、海蛇の――怒り。

「君に何か出来ると思うのかい……? 此処はおか……君の領地フィールドではないのだよ……」

それでも、切り札は笑みを浮かべていた。
少女をせせら笑う様に、余裕さえ感じられた。

「そんなの関係ない……絶対に、逃さないの……っ!」

それを言い切った瞬間、右頭部から一筋の白銀――少女の武器である白無垢を被りし旅人イノセント・アドベンチュアラーが切り札目掛けて線を引いた。

「……やはり、君は愚直過ぎるよ……海蛇サーペント

漆黒はフッ、と姿を消したと思うと、素手で白無垢を被りし旅人イノセント・アドベンチュアラーを掴んでいた。

「これで私に勝てる筈など無いよ……」

そして、切り札は白銀の堅固な武器をあっさりと握り砕いた・・・
少女は痛みに怯み、瞬いた。
ほんの、一瞬だった筈。
なのに、切り札はもう正面におらず、次に目に入った映像には、左目の端に映っていた。

「そして……君は左側に隙が出来やすい……!」

もう一度瞬いたとき、草の碧が右側に広がり、陽の朱と夜の群青と、鮮血の深緑が左手にあった。

狼の眼前を、海蛇は舞い飛んで。

そのまま、地に墜ちた。



海蛇はあっさりと、殺戮者ジョーカーの一撃に沈んだ。






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あとがき








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