…そのことを、ママから聞いたのは今日だったの…。 お兄ちゃまが………自分の力を試したい、って… 今夜の便で…アメリカに行っちゃう、って…… |
お兄ちゃまは学校のバスケットボール部のキャプテンで、とってもバスケットが上手だったの。 お兄ちゃまは、大会でびっくりするぐらいいっぱい得点を入れて、全国大会で優勝までしちゃったの! みんなも、優勝したのはお兄ちゃまのおかげだ、って言ってて、花穂も嬉しかった…。 それで、ママの話だと…お兄ちゃまは「えぬびーえー」で自分の力を試したい、って言って、今夜アメリカに行くっていう話だったの… 花穂がやっと空港に着いたのは、もうすぐお日様が西の方のお山につきそうなころ。 空港には人がいーっぱいいて、お兄ちゃまがどこにいるか全然わからなかったの… 最初は空港の一番はじっこから探していけばお兄ちゃまに会える、って思ってたんだけど… 空港ってとーっても広くって、花穂の足じゃ全部回りきれそうになかったの… それなら人に聞こう、って思って空港の人に「アメリカに行く人は、どこにいるんですか?」って聞いたけど…アメリカのどこに行くのかわからなくて… 花穂、途方に暮れちゃった…。 それで、空港のベンチに座って考えたの…。 もし、このままお兄ちゃまに会えなかったらどうしよう…。 まだ…お兄ちゃまとお別れもしたくないのに、って… そう思ってたら…花穂、泣いちゃってた…。 目からどんどん涙が出てきて…止まらなかったの…… 「……おにい…ちゃまぁ………。」 言っても、お兄ちゃまは来ないと思ってた。こんなに広いところで、来てくれるなんて思ってなかったの。 回りからは、何だかざわざわした声。花穂を見て何か言ってるの…? 「……花穂…」 急に、はっきりと男の人の声が聞こえたの。 一瞬、誰なのかわからなくって、見上げてみたら、花穂の目の前には… 左手にスーツケース、右手に花穂に渡そうとしてるハンカチを持った…… 「…お兄ちゃま……?」 「…ほら…花穂、これで拭いて…。」 花穂、お兄ちゃまを見て…いきなり飛びついちゃった…。 きっと、嬉しかったんだと思う…お兄ちゃまを見つけられて……お兄ちゃまに逢えて…。 「…お兄ちゃま……お兄ちゃまぁ……」 「…花穂…僕に会うために、わざわざ此処まで…?」 「……お兄ちゃま…っ……なんで…何で行っちゃうの…っ…?」 花穂が泣きながらそう聞くと、お兄ちゃまは……どんな顔しながら言ってたのかな?花穂、泣いてたからあまりよく見えなかったの…。 けど、声はちょっと困ったように聞こえた気がするの…。 「僕は…自分の力を試したいんだ…。世界で、自分がどれだけ通用するか…自分の力っていうのが、どれだけのものなのか…。」 「…何で……花穂には言ってくれなかったの…?」 『花穂は…まだお兄ちゃまと一緒にいたかったのに…。』 心の中にその言葉を押し込んで、お兄ちゃまに聞きました。 「…このことを花穂に言ったら、花穂はどうする?」 お兄ちゃまは、逆に花穂に聞いてきました。 「…えっと………お兄ちゃまと…一緒にいたいから…お兄ちゃまを止める、かなぁ…。」 「でしょう?」 花穂の言葉を聞くとお兄ちゃまはそう言って、花穂をおろしたの…。 「花穂なら、僕のことを必ず引きとめようとすると思ったんだ。だから、花穂には何も言わずに行こうと思ったんだ…。」 それを聞いて…花穂、何だか悲しくなってきちゃった…。 「…それって…花穂がドジだから…?もう…花穂のこと見てられないから…?」 お兄ちゃまは、ちょっと困ったような顔をしてた…そんな気がしたの…。 「…花穂……花穂………見捨てられちゃうの…?」 花穂がそう言うと、少し間を置いて花穂に近づいたの。 「それは…違うよ…。」 そう言って、お兄ちゃまはポンポンって花穂の頭を叩きました。 「僕がアメリカに行こうって思ったのは、確かに花穂のことが影響してると思う…。」 花穂、やっぱりって思って…もっと悲しくなってきたけど…お兄ちゃまは、言葉を続けたの。 「花穂は、確かにドジかもしれないけれど…それをカバーするように、いろんなことに一生懸命頑張っているでしょう…?そんな花穂に、あんなに応援されるんだ…。なんだか、勇気が湧いてきて…僕の背中を押してくれるんだ…。」 「え…?」 お兄ちゃまはゆっくり、真剣に花穂に言ってくれたの…。 「全国大会の決勝の時…残り30秒もないのに2点リードされてた時………本当は、僕はもう限界だったんだ…。体力も、気力も…。けど、そんなときに花穂の応援が聞こえたんだ…。『がんばれーっ!がんばれーっ!』って…。」 花穂は、そのときのことを思い出しました…。2点リードされて、お兄ちゃまのチームがピンチだったあの時…。 「あのとき、花穂の応援が聞こえなければ…きっとあんなことは出来なかったと思うんだ…。」 …そう、そのときお兄ちゃまが…相手のボールをカットして、3ポイントシュートを決めて逆転して… 「………花穂の応援は、僕にとても勇気をくれるんだ…。だから、このことも決断させたんだと思う…。」 お兄ちゃまは、そう言ってくれました…けど、やっぱり変だと思うことがあったの…。 「じゃあ…なんで、花穂を連れて行ってくれないの…?」 そしたら、お兄ちゃまはこう言ったの。 「…花穂には、学校のことも、チアのことも、お花のこともまだ残っているだろう?」 「そうだけど……けど……お兄ちゃまはもう…花穂の応援なんていらないの…?」 「いや、まだまだいるよ…。けどね…花穂の応援は海を越えて、僕まで聞こえるんだ…。」 「…ホント?」 お兄ちゃまの夢みたいな言葉に、花穂は聞き返したの。 「ああ…。花穂がどんな所でもいい、応援してくれれば…僕には聞こえるんだ…。海どころか、空さえも越えて、ね。だから、花穂は此処に残ってて…。」 お兄ちゃまの顔は、とても笑顔で花穂を見てた…。 「…………うんっ!いつでも応援するから…がんばってね、お兄ちゃま!」 「頑張ってくるよ。だから、花穂も頑張ってね…。」 花穂は、お兄ちゃまを元気に見送ったの…。 『花穂がどんな所でもいい、応援してくれれば…僕には聞こえるんだ…。海どころか、空さえも越えて、ね。』 あのお兄ちゃまの言葉は本当なのかどうか、って聞かれたら、花穂は今でも『本当だよ』って言えるよ だって今、お兄ちゃまは…………… 空さえ越える応援を、貴方へしてあげましょう。 |
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