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……んぅ……タダイマ…アニキ……むにゃ…。



…ん、んぅ……?…あれ…アタシ、いつの間に寝ちゃって……あっ、アニキ!?い、いつからそこに!??

……あ、そうだったんだ……それにしても、ヘンな夢だったなぁ……。

へ?何の夢って……う〜ん、それはヒミツ♪だって、教えるには……ちょっと、ね……

……な〜んちゃって♪気にしないで、何でもないよっ












夢想満月













「……それじゃあね、アニキ……絶対、戻ってくるから……。」

……夜が明けて、朝日が昇ってくる頃。そう言ってアタシは高速バスみたいなやつに乗ったの。何で乗ったかなんてわかんない。留学の為かもしれないって、最初は思った。

けど、アタシは手荷物なんて何にも持ってなかった。何にも持たないで、ただ一人だけで……一体なんでなんだろう?

でも、夢の中のアタシはそんなことお構い無しに、バスの一番後ろの左側の窓際の席に座ってた。同時に、バスが動き出した。

窓の外では、昇ってくる太陽の手前で、アニキが手を振ってた。アタシも、窓の外のアニキに手を振ってた。

そのときは、全然“サビシイ”なんて思わなかった。さっきも言ってたけど、絶対戻ってこれるって思ってたからかもしれないけど。

けど……だんだんアニキが昇ってくる太陽の中に隠れていって……いつしかアニキの姿が完全に太陽に隠れた頃……いきなり、視界がにじんだ。そう、アタシは……泣いてた。

さっきまでなんとも思ってなかったのに、突然サビシクなってた……。

一体、夢の中のアタシがどんな思いで、どんな理由でアニキから離れたのかは知らなかった。けれども、無性にサビシクなった……。

「鈴凛ちゃん……コレを使ってください。」

いつの間にか隣にいた(やっぱ、この辺が夢らしいなぁ)鞠絵ちゃんにハンカチを手渡されたアタシは、ずっとそれで目を押さえてた。

バスの後ろの窓から太陽が見えなくなるまで、ずっと。





「…鈴凛ちゃん?もう大丈夫ですか?」

「落ちついたデスか??」

「わわわあぁっ!!?」

アタシがハンカチを目から離すと、目の前に春歌ちゃんと四葉ちゃんがいたの。

「ふ、二人ともいつのまにっ?!」

「お二人とも、先程からいましたよ?」

「へっ?!」

「そーデス!ずっと鈴凛ちゃんをチェキしてマシタ!」

「ずっと、って……」

『…つまり、あの泣き顔を見られたのかぁ…。』

そう思うと…かなり恥ずかしいな……、とか思ったけど、それと同時に思った疑問が浮かんだ。

「ねぇ、どうして3人はこのバスに乗ってるの?」

そう聞いたとき、ガコンって車体が揺れた。





気が付いたら、バスは森の中を走っていた。

時々葉と葉の間から見える太陽の位置から、もう少しで南中する時間だってわかった。

「そろそろ、私の目的地ですね……。」

「えっ?」

アタシは鞠絵ちゃんの声にちょっぴり驚いた。それは、アタシがこの森を通り抜けた後に着く場所を知ってるから……。

「もう少しで……病院です。」

そう、鞠絵ちゃんがいつも療養している病院……。



「それではみなさん、先に降りますね。」

次の瞬間、バスは鞠絵ちゃんが降りるべき場所に着いた。……そう、病院に。

「それにしても、よかったですわ。」

春歌ちゃんが不意に言った。

「は、春歌ちゃん、それってどういう……。」

「鞠絵ちゃん、あともう少しで退院できるんデスよねぇ♪」

アタシの焦った台詞に四葉ちゃんがかぶるように言った。

「えぇ、今回の外出許可期間中に病気の発症がなければ、残り1、2週間で退院できると……。」

鞠絵ちゃんが嬉々として言った。

それを聞いて、アタシもなんだか嬉しい気分になった。だって、やっと鞠絵ちゃんが退院できるっていうんだもの!……あ、けど……コレは夢、だったんだよね……。

「良かったね、鞠絵ちゃん。」

「はい、みなさんのおかげです

アタシ達にそう言って一礼すると、鞠絵ちゃんは元気よくバスを降りていった。





バスはまた、森を走っていた。

けど、その風景を見た直後に、風景はお寺や神社に変わってた。

「今度は、ワタクシの降りる番ですわ♪」

そういうと、春歌ちゃんは荷物を取り出して準備を始めた。

けど、一方のアタシはここが何処だかさっぱりわかんなかった。ただ、見渡す限り、無造作に寺や神社が広がってることしか……。

「あっ!マイコさんデスっ!!ホンモノのマイコさんが歩いてるデス!」

四葉ちゃんがそう叫んだのを聞いて、アタシも窓から外の様子を見てみた。

すると、その通りに舞妓さんが歩いてた。日傘を差して、和服を着て、顔や手を真っ白に染めた舞妓さん。

「…ワタクシもこのように…兄君さまに似合う女性になれるでしょうか…。いいえ、そのためにワタクシはここに修業に来たのですわ!」

「…春歌ちゃん、なんか言った?」

「あっ、いえ、何でもないですわっ。」

アタシは、春歌ちゃんが何かを呟くのを聞いた……何か、自信なさ気に言ってたんだけど……なんて言ってたっけ…?





気付いたら、春歌ちゃんはバスから降り、外の景色も夕刻のビル街になっていた。

だけど、そこの様子は日本のそれとは何か違ったような気がした。

と、時計塔の見える川の手前でバスは止まった。

「待ってクダサイーっ!四葉も降りるデスーっ!」

四葉ちゃんの声に、アタシはハッと気が付いた。

この川がテムズ川であることに。あの時計塔がビッグベンであることに。そして、この街がロンドンであることに。

「待って、四葉ちゃん!!」

アタシは四葉ちゃんを追いかけて、バスを降りていた。

「何デスか、鈴凛ちゃん?」

四葉ちゃんは、夕焼け空とビッグベンをバックにして、何故呼び止められたかわからないという声を上げた。

「どうして、四葉ちゃんはここで降りたの?ここは……。」

ここは、四葉ちゃんの故郷で…ツラい思い出の場所のはずなのに…。

「鈴凛ちゃんってば、バスで話したこともう忘れちゃったんデスか?」

「…何を?」

「四葉は、ここで四葉の兄チャマと一緒に暮らすんデスよ?」

「へっ…?」

…それは、アタシが想像してなかった答えだった。

「兄チャマがデスね、四葉の住んでた国のことをもっと知りたい、って言ってたんデス。それで、兄チャマはロンドンのこともあまり知らないデスから、四葉が案内をしてあげて、一緒にロンドンで暮らすんデス

「……そう、良かったね……。」

幸せそうな四葉ちゃんに、アタシは控えめに祝福した。そして、バスに乗ろうと踵を返した。そのとき。

「…鈴凛ちゃんは…何処に行くのデスか?」

「………アタシも、わからないよ…。」

アタシの目の前には、暗い空と、夕日で緋く染まった満月があるだけだった。





バスの中には、アタシ一人だけだった。

アタシは何処に向かっているのかな?

アタシは何のためにその場所に向かってるのかな?

アタシはそのためだけに大事なものアニキを捨ててまで行く価値があるのかな?



外は、なんにもなかった。唯あるのは、大きく輝く満月。

太陽がなければ輝かない、満月だけ。





アタシは、何処に行きたいの?





また昇った太陽の光が、アタシを目覚めさせた。

ううん、太陽の光だけじゃなかった。

その目の前には、アニキがいた。

「……タダイマ、アニキ……。」









よーく考えてみれば、変な夢だったと思う。よくわからない、まとまりのない夢だったの。

けど、この夢でわかったことが1つあるの。

……留学するのはもうちょっと先でいいかな…、なんてね







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あとがき


以上、六寺のあらデシタ〜






閉じて戻ってクダサイ



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