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「……もうっ、お兄様ったらいつまで待たせるつもりなのかしら?」

時計の針は、もう午後4時30分を指してた。けど、お兄様が迎えにきてくれるはずの時間から、もう30分も経ってて……。













冷たく強い北風は













今日のデートはいつもとはちょっと違ったの。それというのも、これがお兄様が誘ってくれたから♥

いつもだったら、ちょっとオクテなお兄様を私がリードしてく、って感じなんだけど……お兄様が『今回は僕に計画建てさせてくれない?』って言ってくれて……うふふっ♪

けど、それだからなのかしら? 中々来てくれないお兄様に……ちょっと、怒ってたの。



「まったく、こんな可愛い女の子を待たせるなんて、お兄様も罪よねぇ〜」

なんて言いながらソファーに座ったり立ったりして、落ち着かせようと自分に言い聞かせてたの。

「……外で、待ってようかな。」

けど、どうしても落ち着かなくって、外に出て気を紛らわせようって思ったの。

まだかなまだかなって、まるでちっちゃい子が遠足前の夜に待ち遠しげにしてるような……期待と不安で気持ちがいっぱいになってた。

今日は何かが違う。そんな気分……。



逸る気持ちを抑えながら、ブーツを履いて、ドアを開ける。

「……きゃっ!?」

外に出た瞬間、ゴォッ、と音を立てて、北風が吹き荒れた。

まるで、私に何かを予感させるように、冷たく、強く吹いた。



「お兄様……一体、何してるのかしら……?」

風が止んで、そう思った。お兄様が、私の家から見て右の方から自転車を漕いでくるいつもの光景を、フッと思い出しながら。



――チャリンチャリン。

――「おぉーい! 咲耶ぁー?」

そうやって、警鐘を鳴らしながら大きな声を上げて私に呼びかけてくれるお兄様。

それを合図に、私の隣の家で飼われてる犬がお兄様に向かって吠えて……

お兄様ったらいつも吠えられるのに、その度に驚いて……

――「うわ、わわ、わわっ!」

自転車のバランスを崩して、危なく倒れそうになるの。

そんなお兄様を見て、笑う私。お兄様もつられて笑って――



ピーポーピーポーピーポー……



そんなことを思っていたときだった。

右の方のどこか遠くで、救急車のサイレンが鳴ってた。そう、お兄様が来るはずの右側から。

起こっちゃいけないコトが、サッと脳裏をよぎった。

その刹那、また風が左から駆けていった。

全身が震えだしそうな寒気と、嫌な気分だけを残して。

「もしかして……お兄様……!」

一瞬で鼓動が早くなるのを感じた。

手袋は冷や汗を吸って、凍った空気が直に伝わってくる。

いつもは時間通りに来てくれるお兄様が今日だけ来ない理由は、もうそれしか浮かばなかった。

もう一度、風が強く、左から右へと駆け抜けていった。

行かなきゃ。

そう頭で判断してた。けど、足は固まって動けなかった。

その光景を、見るのが怖くて。

見たくなくって。見たくなくって。



――チャリンチャリン。

そしたら、突然聞こえたの。

――チャリンチャリン。

そう、自転車の警鐘と……

「おぉーい! 咲耶ぁー?」

……いつもどおりの、お兄様の声が……。

「ゴメンっ! 準備するのに少し手間取っちゃって……それに、向い風もヒドくって……」

……そういえば、先刻の風は右の方に抜けていったっけ。ということは、お兄様にとって今日の風は向い風。

全部、私の思い過ごしだったんだ……。

私はその場で、安心感で座り込みたい気分だったの。

「……咲耶?」

けど、ちょっとバツの悪そうなお兄様を見てると……

「全く、レディをこんなに待たせるなんて失礼にも程があるわよ?!」

……少し、強がってみちゃうのよね、私。

「だからゴメンってば……」

そして、へこたれてるお兄様を見て、ちょっぴり笑うの。

それが、いつもどおりの私。

お兄様の知らない、先刻までの私じゃない。





こんなこと、絶対にお兄様には言わないでおこう、っと。






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あとがき








閉じて戻ってクダサイ



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