ある冬の日の昼下がり…。 すぐ近くの公園の原っぱ。その上に広がる一昨日降って、溶け残った白き雪。 その真ん中の木でできたテーブルの上、小洒落たティーセットを載せて、温かなミントティーをすする。 テーブルの向かい側に、そのティーを淹れた少女をぼんやりと見ながら…。 「に〜い〜さ〜ま〜??」 |
「えっ?ど、どうしたの、白雪?」 いきなりの白雪の声に驚いて、目を丸くしてしまった。 「にいさま?姫の話、ちゃんと聞いてたんですの?」 少し訝しげな顔をして、白雪は僕に訊ねてきた。 考え事をしていた僕は、全くといっていいほど白雪の話を聞いていなかった…。 「…ご、ごめん…」 僕が正直に告げると、白雪はちょっとテーブルに身体を乗り出して続けた。 「にいさま…なんだかちょっとボーっとしてるんですの…。何かあったんですの…?」 目をちょっぴり潤ませて、僕をじっと見つめている…。 「悩みがあるなら…姫に言ってほしいですの…。」 …白雪に、心配させちゃうなんてなぁ…。 依然、僕を見つめたままの白雪に、僕はこうするしかなかった。 「大丈夫だよ、白雪。僕は大丈夫だから…。」 少し引きつった作り笑いを見せて、僕はそう言うしかなかった。 「…本当ですの?」 「うん、本当だよ…」 「なら…良かったですの♪」 そう、こうするしかなかった…。 白雪を心配させたくはなかった。 それに、僕が考え込んでいるのは…他でもない。白雪のことだったから。 白雪は、日々ほんの少しずつだけど、成長している。 いつかは大人になり、そして僕から離れるだろう。 そして離れた後、白雪がどのようになってゆくのかが、不安でたまらないのだ。 まるで、自分の娘を心配する父親のような気持ち。 そんな気持ちが、僕の中を取り巻いていた。 「ね、白雪?さっきの話、最初から聞かせてくれない?」 そんな心配を悟られぬよう、僕は白雪に先刻の話の続きをせがんだ。 「………。」 しかし、白雪は先程から僕の顔を見つめたままで、真剣な顔をしていた。口を閉ざしたまま。 「…白雪?」 もう一度、ゆっくりと呼びかけてみる。 すると、大きな目を見開いて、身体をびくっと反応させた。 そして、少し焦ったようにテーブルに乗り出したままの身体を、ガタガタと音を立てて椅子に落ち着けさせると、間髪入れずに言った。 「な、何ですの?にいさま?」 「えぇとね、白雪のさっきの話、もう一度最初から聞かせてほしいな、って…」 白雪の淹れたミントティーを手にとって、僕は切り返した。 すると、白雪は途端に妙な顔を見せて言った。 「………姫…さっきまで何の話してたんですの…?………考え事してて…姫、忘れちゃったんですの…♪」 言い終わると白雪は、舌を少し出して後頭部を掻く仕草を見せた。 白雪が何を考えていたのかは、容易にわかった。白雪は、僕の様子を見て心配してしまったのだ。 そう思うと、僕は思わず吹き出してしまった。 何せ、心配されてる方が心配してる方の心配をするのだ。笑ってしまうものだ。 「っはははは…」 「笑うことないんですのっ!んもう…」 白雪は恥ずかしがりながらそう言った。 僕は、『悪い、悪い』と笑いを抑えながら答えた。 その時、手に持っていたミントティーの中身に、静かに波紋が起きた。 頭にも、少し冷たい感触。 ふと空を見上げ目に飛び込んだのは、鉛色の雲と映えた白の粉雪。 「…雪だ…。」 「…雪…ですの♪」 僕も白雪も、輝きながら舞い降りる粉雪に目を奪われていた。 そして顔を戻すと、同時ににっこり笑った。 白く輝き舞う粉雪たちが、僕達を包む。 僕の心を隠すように、僕の心を代わりに告げるように。 いつまでも、この白く輝き舞う粉雪のように…。 |
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