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 私は、エントランスホールから外を眺めていました。いつの間にか、亞里亞さまがレッスンを受けていらっしゃる間などは、この場所に来ることが増えていました。一年前のあの会話から、気になってしまって……。













MESSAGE FROM FRANCE  side.C













「本当に、お会いにならなくて宜しいのですか?」

「ええ、様子さえ見られればそれで良かったので。それに、此処で会ってしまうのも、少し違う気がしますし」

「そうですか……」

「それでは、じいやさん……亞里亞をお願い致します」

「勿論ですよ。私は亞里亞さまの“じいや”なのですから」

「……はは、そうですね。では、失礼します」

「はい、お気を付けて……」







 そう申されると、兄やさまは歩いてゆかれました。こちらを振り向く事なく、ゆっくりと。私はただ、それを見詰めることしか出来ませんでした。

 けれど、私は兄やさまが心配でなりませんでした。その背中からは、彼が背負うにはあまりにも大きい何かが、垣間見えた気がして。きっと、兄やさまもその存在に気が付いていると思うのです。それを必死に隠して、堪えていらっしゃるのでしょう。兄やさまは非常に亞里亞さま思いでいらっしゃいます。故に、ひどく心配なのです。



 正直なことを申し上げますと、私、立花・クローディーヌ・千歳一個人としてはは亞里亞さまと兄やさまを引き離してしまったことを、少し後悔しているのです。あの日、涙を流される亞里亞さまと、声を震わせて説く兄やさまを目にしてしまいましたから。私にも妹が在りますから、その寂しさは少なからず識っております。

 私だって想っていないわけではございません。けれども、勿論お母様の御意向もございましたが、これからを考えたときに、亞里亞さまをか弱い少女のままで在らせられる訳にはいかなかったのです。彼女のためにも、彼のためにも。

 ですから、私は択んだのです。亞里亞さまをフランスへ連れてゆく、そして、亞里亞さまに将来のあらゆることを学んで戴き、正真正銘の“レディ”になって戴きたいと、“じいや”として願って。





「何をしているの、“じいや”?」

 ふと後ろを振り返ると、其処には亞里亞さまがいらっしゃいました。

「いいえ、何でもありませんよ」

「ふふ、じいや、ウソはよくないですよ。何か考え事をしていたのでしょう?」

 最近では、レッスンの成果が出ているのでしょう、様々なことに落ち着きが見られるようになりました。口調も、確りとした言葉をお使いになられ、日本に居らっしゃった頃より、格段に立派になられました。亞里亞さまの成長は、私にとっては喜ばしいことです。けれども、千歳としては何故か、寂寥感が胸を襲うのです。その成長が、次第にあることが近付いていることを示しているから。

「ええ、おっしゃるとおりです。……亞里亞さまが、中々私の呼び方を変えて下さらないな、と思いまして」

 けれど、私はそれを隠さねばなりません。何故なら、私は“じいや”なのですから。

「うふふ、だって、“千歳さん”なんて呼んだら、じいやがじいやじゃなくなっちゃうみたいじゃない」

 その言葉は、どうしてか私の頬に熱をもたせました。











 亞里亞さまのお傍を離れたくない。これは、じいやとしても、千歳としても、変わることのない本当の気持ちでございます。ですから、どうか……。





side.C end









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