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 この心

 日の裏までも

 しかれども

 雲の随に

 手ぞ伸びつらめ

































 あなたはきっと知らないことでしょう。

 何時だってそうだった。あなたは知っている風で、本当は知らなかった。だからこのことだって、きっと知らない。

 知りたい、なんて言ったって、絶対に縦には振らない。あなたの頼みであっても、絶対に。これは決めたことだもの。

 手の掛かる子だ、って思ったでしょう。そんなのお互い様よ。

 類は友を呼ぶ、って言葉くらい識っているでしょう。あなたも、変わらないのよ。

 都合の悪い時は意地を張って、本心を語ろうとしない。騙ることはするけれども、ね。――私はね、騙るクセに騙りを見破れないなんて「ミムメモ」じゃないの。驚いたかしら。「チツテト」の化かし合いは得意なのよ。好きじゃないけど。

 手遅れね、もう。したくなくてもするしかないの。こんなことになったのは誰がいけなかったのか、分かってるでしょう。

 いけなかったのは――あなた。

 ええ、そうよ。あなたが、いけなかったの。――驚いているでしょうね。自分が何をしたか、あなたは分かっていないのだから。

 何をしたか、なんてことは、自分の頭で考えなさいね。あなたがどんなに罪深い存在であるか、確りと、心に刻んで。

 いつもみたいに知ったかぶるのは駄目。目を背けないで、ちゃんと見て。

 けれど、あなたはきっと分かってない。分かるはずがない。――だから、手掛かりを此処に残してあげる。

 どうしても知りたいと思うなら、この先を読んで。







 全ては、あなたと出会ったことで始まったの。――最初こそ、ただ居場所を少し共有するだけの、少し擦れ違っただけの他人だと思っていたのけれどね。特別なコトなんて何一つ考えてなかったし、考えることもないだろう、って。けれど、違ったの。あなたは誰よりも速く、私に話しかけてきたの。

 きっと、あのときのあなたは知らなかったから、そんな安易に話しかけてこれるんだと思った。知っている人は、まず話しかけてこないはずだから。だから、最初に警告しようと思ったの。私になんて、関わらない方が良い、って。でも、あなたはまったく聞く耳を持たなかった。

「友達になりたい、あなたを知りたい、って思った。そんな好奇心で動くことは、悪いこと?」

 机の向こう側、手を伸ばせば触れられるような近さで、あなたは事も無げにそう言った。

 確か、私はこのとき、好奇心は猫を殺すのよ、とだけ言い残して、あなたの前から去ったの。その場に残っているのが辛くて。それと同時に――正直に言うと、私に興味を持って話しかけてくるひとに出会えたことが、嬉しく、感じてしまった。

 縁遠いモノだと思っていたわ、そんな感覚。それに、私にはあってはならないとも思っていたわ。

 ただ、またこの感覚を得られることなんてないと考えて、心が痛んだの。だって、あんなあしらい方をされて、また話しかけてくるなんて考えられないもの。それに、私にはそんな資格、無いのだから。

 今までだったら、耐えられる自信が有ったわ。私はそれを知らなかったのだから。思われるコトなんて、無かったのだから。







 ところが、あなたは次に会ったときに、普通に話しかけてきたの。

 もう有り得ないと思っていたのに――それなのに、目の前に餌を下げられたら、期待してしまうじゃない。

 二度も手を差し伸べたあなたに、私はいつの間にか心を許していた。私という存在が他人と触れ合ってしまうことへの罪悪感を、あなたはいとも簡単に忘れさせて、安らかに受け入れてくれた。それはあまりにも心地よくて、甘美で、私を惹くには十分すぎたの。

 嗚呼、でも、やっぱりそれはしてはならないことだった。

 理由がどうであれ、あなたがどうであれ、私は――他人と交わりを持ってはいけなかったの。あなたを知って、あなたの存在が私の中でどんどん大きくなっていって、あなたのことだけで思考の殆どを敷き詰めてしまったの。私は、罪と向き合わなくなったの。

 例えどんなに偉大な人物であろうとも、己の犯した罪を忘れて生きている者は、ただの愚か者だわ。

 何れ、そのような者には罰が与えられる。――私のようにね。私自身が、持っていた罪を忘れ、罪を重ねてしまったのだから。そして私は、消えない罪とこれから生涯向き合わなければならなかったの。

 途方もない話に聞こえるかもしれないけれど、そう思うの。それが、生まれた時点で罪を背負っていた私の、罰なのだから。







 ねえ、あなたが何をしたのか、分かったかしら。

 愕然としたわ。気が付いたときはもう、私はまた罪を犯してしまったのだから。あなたがしたことは、私にとって大きすぎるモノを与えてしまったの。

 つまり――あなたは私に、希望を与えてしまったの。

 手を伸ばせば届いてしまいそうな希望ほど、残酷なモノはないわ。近すぎれば手に入るでしょうし、遠すぎれば諦めがつくもの。それなのに、あなたは――届きそうな場所で、されど伸ばしてはならない場所で輝いているの。本当に、あなたは残酷だわ。

 いっそのこと、愚か者になってあなたと居ても良いかもしれない、と思った。そうできるのなら、私はそれでも良いと思う。でも、私には、罪と向き合うと決めた場所で罪を忘れるなんて、都合の良いことは出来ないみたい。だから、あなたのいるこの場所から離れることにしたの。

 瑠璃色に空の色が変わったころに、私は遠くに行くわ。辛すぎる光が届かない場所に。追いかけるだなんて、考えない方が身の為よ。私にまた、罪を負わせないで頂戴。ただ……

 私は――光の届かない場所に行っても、それでもやっぱり、光に手を伸ばしてしまうかもしれない。愚か者に成り下がってでも、その温もりを手に入れたいと、私のどこかが願っているの。捨てきれない希望はあまりに酷で――もっと近づいてくれるか、もっとずっと遠くならないと、どうにもできないの。だから、分かって。





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 これでも、手助けしてる心算なの。

 こんな慣れないことをして、血の伝言ダイイング・メッセージじゃないのだから、と思わせたかしら。それでも――

 話したいことは、確かにこの紙に書き留めたから。これが、私の本心。

 ちゃんと読んで、返事を頂戴。

 肯んじてくれることを期待してはいるけれど――本当はどちらでも構わないの。

 浮かれて罪を忘れた愚か者になるか、またいつかの虚を演じるようになるかなんて、私にとって大した問題じゃないから。

 私が私として、あなたがあなたとして往くならば、答えを残しておく必要があるの。だから、聞きたいの。だから、あなたも遺して。この場所に、確りと。







-When you reply to her desire, this story is end.















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閉じて戻ってください。



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