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T 月並みだけど、尋常じゃない



「貴方を、愛しているわ」

 そして、貴方も私を愛してくれている。そう返してくれると、知っている。

 ねえ、そうでしょう? 焦らさないで、私の耳元に、その愛らしい聲で囁いて。



 けれど、貴方は接吻で何時も誤魔化すの。

 でも、貴方の拙くて懸命なベーゼは好きよ。可愛くて、堪らない。



 だけど、やっぱり貴方の聲が聞きたいわ。貴方の照れて上擦った聲で、愛してると言って。

 ――嗚呼、泪を流さないで。奇麗な貴方の顔に、そんなモノは似合わないわ。

 厭だ、そんな嘘云わないで頂戴。貴方のこの潤む唇は、そんなコトを紡ぐ為に在るのではないの。

 だから、バレていると云ったでしょう? 貴方のことなんて、知っているもの。貴方は私が……



 まだ云うの? 仕方の無い子ね。そんな唇は、綴じて仕舞いましょう。

 抵抗は駄目よ。手元が狂ってしまうわ。――嗚呼、だから云ったのに。お馬鹿さん。







 「貴方を、愛しているわ」

 そして、貴方も私を愛してくれている。そう返してくれると、知ってイる。

 ねえ、そウでしョう? 焦らサないデ、私ノ耳元に、ソノ愛らシイ聲デ囁イテ。



 嗚呼、私ハ『シアワセ』ダワ。



















U 黄昏にサヨナラをして、朝陽に口づけをして。





「サヨナラ、しようか」

 そう貴方に言われたのは、遠いようで未だ近い、秋の朱い空の下でだった。

 私は一度だけ、だけど深く頷いた。





 思い返せば、呆気ない終わりだったと思う。今までの感情が嘘だったかのように、あっさりと。

 いいえ、寧ろ嘘だった。貴方が告白したとき、私は貴方のことなんて感心がなかった。『スキ』や『キライ』の前に、私は貴方を知らなかった。

 だけど、私は受け入れた。それは、一種の同情。見ず知らずの他人でも見捨てられなかった、だから。



 違う。

 私は、人を傷つけるのが嫌だった。

 相手の想いには、ちゃんと期待どおりの答えを返さないといけない。そう、思っていたから。



 いいえ、それも違う。

 本当は、肩書が欲しかっただけ。その肩書で、恋愛至上主義社会の勝者でありたかったんだ。

  

 どれにしたって、私は私を持っていなかっただけなんだけど。



 そんな、最低な私。

 涙が、止まらないくらいに。



 それでも、太陽は必ず昇り、精一杯に私を照らした。

 沈んでも、月を照らして私に光を与えてくれた。

 そうだった、と気付いたのは、冬の鈍色の空の下でだった。

 貴方は、見えなかった。







 未だ空の色が暗いある日、私は紙飛行機を投げた。

 有りったけの力で、全ての想いを籠めて、貴方がいるだろう空へ、投げた。









 「口づけ、しようか」

 そう貴方に言ったのは、夢のようで夢じゃない、春の紅い空の下でだった。

 貴方は一度だけ、だけど深く頷いた。











 太陽は、全てを照らしてくれた。少し不器用だけど、力強く、暖かい光を私にくれる。

 有難う。大好きよ。





























V 虚構の日



四月一日、私は嘘を胸に抱いて、産まれ落ちた。



私は生れついての嘘吐きだった。

私は幾度となく嘘を吐いてきた。

私は嘘を使って壁の中に生きた。



その壁は堅固にして美麗だった。

その中は騙る宝箱と仮面が積る。

その奥の本当の穢れを隠す為に。



想いを隠し生きるのは楽だった。

想いを曝け出し往くよりずっと。

想いはいつしか忘れられたけど。





「俺は、貴女のことが嫌いです」





忘れぬ台詞は、四月一日のこと。

忘れない、貴方の言の葉を必ず。

忘れてしまったのは、私の答え。



たかがと思われるかもしれない。

たの言葉じゃ、駄目だったんだ。

ないと思ってたから、その言葉。



な?             .

?              .

。永遠に。          .





四月一日、私は真の愛を持って、産れ変わった。







そして、Zは重なって繋がって、進んでいくの。

私がこの形でしか、貴方を愛せないように、ね。























W かくれんぼ



貴方のことだから、知らないのでしょうけど。

幼い頃からずっと貴方の傍にいて、長い時間、貴方だけを見つめていた。



「もういいかい?」

「まぁだだよ」



貴方のことなら、なんでもわかってた。

かくれんぼをすれば、貴方の場所はすぐわかった。貴方もまた、私の場所をすぐに見つけてくれた。



「もういいかい?」

「まぁだだよ」



早く見つけて頂戴。                   変わることが、コワイの。

待っているから。            私からは、言えない。

「もういいかい?」

「まぁだだよ」



私は、待ち続けるわ。今のままでいることが、幸福だから。



「もういいかい?」

「まぁだだよ」



貴方のことだから、知らないのでしょうけど。



「もういいかい?」

「もういいよ」



私の中で、『れ』は二つ。



























X 終演と終焉と



 このお話に出てきた彼女たちを、貴方はどう思う?



 彼女は、彼女の想うように、彼女らしく生きた。

 歪み、投げ、騙り、隠れ、各々の形で。



 けれど、彼女たちは今、幸せです。

 少なくとも、彼女自身はそう思っていることでしょう。



 どんな形だって構わない。

 どんな姿になってもいい。

 間違いなんて、無いから。









 貴方の幸福を、掴んで頂戴。





-Fin















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閉じて戻ってください。



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